主人公は「音石涼平」。
中学三年生で弟の周平、父と母の四人家族です。
ところがある日、父親が人を殺してしまい…というお話。
人殺しの父親(音石孝平)がほぼ登場しません。
50万程度の金銭トラブルで「カッとなって」他人を殴り殺す父親なのに性格がまったくわからず。実はこの父親、メンタルに障害でもあったのでは?とか思いながら読んでいたのですがそんなこともない様子。
なぜ…なぜ50万程度で人が殺せるのか…私はそこが知りたかった。(けど一切書かれていなかった)
殺されたのは鈴木正輝さん。45歳。父親とは大学の頃の友人。
鈴木さんの両親は健在ですが正樹さんは独身っぽい。(奥様や子供の描写なし)
この鈴木さんに対してもどんな人かの描写がほとんどないので同情のしようがない。50万程度で殺されてしまった哀れな男性です。
出てくる登場人物がほぼ「自分」の事しか考えていないなあ…という印象です。
父親が人殺しをしたとたん母親は保身のために離婚し苗字を変え、住んでいた家を捨て子供たちは転校…となめらかに逃げていきます。
亡くなった方に詫びるなら殺人犯の家族と言われながら今住んでいる所にとどまり、生きる道もあるとは思うのですが。
親の離婚により晴れて母親の苗字「室井」を手に入れた涼平ですが、新しい学校になじもうとせず浮いた状態で淡々と過ごします。
そこで家族が痴漢で捕まった戸高さんという女生徒が「痴漢した兄のいる妹」と言うだけでいじめられていたところ、いじめていた生徒をカッなって殴り飛ばしてしまいます。
これは…「犯罪者の子どもも犯罪者」という流れとしか思えませんでした。
いくら正義感でも人を殴るのは許される事ではありません。殺人者の父と同じことをしています。
カッとなって人を殴る父親とカッとなって人を殴る涼平…同類です。
そして加害者家族が殺された「被害者」の事を考えだしたのは227ページあたり。
(64ページに川端弁護士に言われて遺族に謝罪の手紙を書くように言われるのですがこれは弁護士から言われたお話なのでカウントしていません)
245ページの本文でようやく227ページあたりで「被害者」の事を考えだします。
遅い。普通は家族が人を殺したら「すぐ」に「被害者」の事を考えないといけないのでは…
登場人物が自分の事ばかりでぐるぐる考えた結果、「被害者」にたどりつくのは勝手すぎます。もうすこし早く被害者の事を考え始めたならモヤモヤしなかったかも。
涼平の彼女の美夏の存在は不要でした。
「だれがなにを言っても、なにがあってもずっと、私は音石君の味方」
なんて言ってるけど、そこまで涼平が魅力のある人物ではないのでなぜ美夏がそこまで涼平を好きなのか謎でした。
急に怒鳴るし「べつに…」が口癖だし女性を押し倒す野郎だし人殺しの息子だし…良い所全くないのになぜそこまで言えるのでしょう…美夏が不幸になる未来しか見えない。
「かわいくて優しくて都合のいい、自分だけを愛してくれる理想の女の子」の集大成が美夏なイメージ。
こんな美夏みたいな女神のような中学生いたら怖いです。さっさと別の彼氏を作る方がリアリティがあるような気がします。
友人の中澤保の存在が非常に優秀だったので、美夏を登場させずに中澤だけを登場させたほうが良かったかも。
加害者家族は被害者家族の事を一番に考えましょうね、という気持ちになった本でした。
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羊の告解
著者 いとうみく
装画 ゆの
発行者 松岡佑子
発行所 株式会社静山社
2019年3月6日初版発行
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