古市憲寿さんの書いた小説です。
主人公は藤本香織。6172日前、17年前の夏、ライブ中にステージから落ち、体が不自由になります。(作中で月日は流れるため小説の開始時点で17年前という意味)
ステージから落ちて全身動かない状態になるってどういう落ち方をしたのやら。
脳が損傷したのか背骨が損傷したのか神経が損傷したのか、それとも総合的な何かの障害なのか…?はっきり書かれていないため「体が不自由」というカテゴリーに入れています。
出てくる登場人物がほぼクズなので読み応えがあります。
藤本香織→人を見た目で判断したり自分の好きな海くん以外は見下し軽蔑する。
香織の母→自分のいう事を聞かない香織が実は嫌い。体が不自由な香織より自分の体(美容)が大事。
香織の姉→香織を金づるにしか思っていない。香織のお金を使い込む。体が不自由になった香織を「馬鹿」扱い。
香織の父→実の娘に性的な触れ合いを求める。
高畑帆波→香織の元ライバル。誰とでも簡単に体の関係を持ちのし上がる。香織が好きだった海くんと結婚。(自力で楽器をマスターしたり努力の影は見られるのでこの本のなかでは向上心がある方)
海くん→香織が嫌っている事を知っていた帆波と結婚。香織のデビューの日には「お墓参りだと思って」香織の家に向かうという一言でクズ認定。
その後20年近く寝たきりの香織に救いがあらわれます。
鍼灸師のジャン先生です。香織に意識がある事を見抜き治療を施そうと懸命になりますが香織の家族はそろってクズばかりなので「意思疎通ができるようになると困る」とジャン先生の治療を阻止しようとします。
ダメだこの家族…
本文中に東日本大震災の映像を香織が見て涙する場面があります。
この場面は不要だった気がします。この部分を抜いて読んでも全く問題ないです。
結果的には香織は醜いと思っていた母親よりも自分が醜くなっていることにショックをうけます。20年近く寝たきりなので仕方ないとはいえ残酷…
「髪はぼさぼさ、猪八戒の様な輪郭、荒れた肌、顔には赤い斑点、眉毛手入れなし、鼻毛が出て鼻水が出ている、目元は窪み何本もの皺、うつろな目、口はだらしない、下顎には贅肉、不気味なほどに太っている、ほうれい線あり、首元に皺、骸骨みたいに細い腕、藤色の皮膚…」
美しかった香織が醜くなる様は残酷というしかありません。
最後は元々香織が嫌っていた香織の部屋を改装。
良い感じに登場人物の性格がまろやかになり、香織は他者への怒りを消し去り歌を捨てて終わり。
ジャン先生の治療で意思を伝えられるようになった香織が指一本とかでネットを駆使して家族に復讐をするのかも…とか考えていたのであっけなくハッピーエンド的な終わり方をしたので拍子抜けしました。
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奈落
著者 古市憲寿
発行者 佐藤隆信
発行所 株式会社新潮社
2019年12月20日発行
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