ストーリーが「手紙」で綴られる「書簡体小説」と呼ばれる作りの小説です。
主人公は「ダン」と「ユーナ」。
ダンとユーナの名前はキプリング作の「プークが丘の妖精パック」の兄妹から取っています。
ユーナが「プークが丘の妖精パック」に一枚の手紙を挟み込んだ事により、お互いが本に手紙を挟み込むようにして文通をする…というなんとももどかしいやり取りで話が進みます。
手紙のやり取りを読んでいくうちに、どうやら自分たちが生活している研究所は「ヤバイ」場所と言う事がわかってくるのですが、カズオイシグロの「わたしを離さないで(2005年発表)」や白井カイウ・出水ぽすかの「約束のネバーランド(2016年連載開始)」みたいでハラハラしました。
※本作は2012年に書かれた本で「約束のネバーランド」はこの作品より後の物語ですが「紙の心」が出版されたのは2020年8月なので似ていても盗作というわけではないのであしからず…
ここでは少年少女たちが「トラウマ」治療をされ、親にとって「完璧な子」になるよう「ロボトミー」のような治療をされる場所だった、という事が最後にわかるのですが、それまでにダンとユーナが「ここはヤバイ」と気が付くまで結構遅いので謎でした。
ちまちま飲まされる「薬」や医師による「謎の診断」で「ここはヤバイ」とすぐにでも脱走したくなるようなものですが疑わずに治療されながら「じっとして」います。
その点「ここがヤバイ」とすぐ気が付いた「アラミス」は切れ者だったのでアラミス目線からこの本を読みたかったかも…
(アラミスに比べるとダンとユーナのアホさが目立つ)
ダンのルームメイトは「アラミス」と「ポルトス」でこれは三銃士からとっているニックネームです。ポルトスは「骨形成不全症」ですが症状は軽くキツイ運動さえしなければ日常生活を普通におくれるようです。(最後には肋骨と片脚を骨折してしまいますが)
最後はユーナ、ダン、ヨランダ、アラミス、ポルトスは家に帰らず暮らすようになります。アラミスは研究所に火を放ち、焼失させる知恵者でした。
その後の五名がどうなったかが気になるので続編があると良いのですが…
まあ、自分を「理想の子」に変身させようとした毒親の元には戻りたくないでしょうし五人でなんとか生きていくような気がしないでもない。
人間の「トラウマ部分」だけをきれいに消し去る「都合の良い薬」はいつかできるのでしょうか?
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紙の心
作 エリーザ・プリチェッリ・グエッラ
カバー画 カシワイ
訳者 長野徹
発行者 岡本厚
発行所 株式会社岩波書店
2020年8月7日第1刷発行
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